2014/06/27

第38回園芸振興奨励賞挨拶

公益財団法人園芸振興松島財団
第38回園芸振興奨励賞
「多様なメディアによる果物の健康機能性情報の普及」

【受賞挨拶】

 本日は、ありがとうございました。松島財団の理念、信念である「農業は立国の礎」に基づいた第38回園芸振興奨励賞をいただくことができて大変うれしく思っています。青果物を通じて明るい豊かな社会の形成の観点から私たちの果物と健康に対する仕事を評価していただき感謝いたしております。

 また、若い頃から目をかけていただいた元園芸学会会長の岩田正利先生と同じ賞を受賞できて、とても光栄で名誉に思っています。

 今から15年ほど前に果物と健康との関係についての仕事を始めたのですが、その頃の果物にまつわる様々な健康情報を見て、大変なことになると思いました。

 例えば、「果物に含まれている果糖は血糖値を上げるので糖尿病に悪い」、「果物を摂取すると中性脂肪が増える」、「果物は肥満の原因」などです。そうした状況や誤解を解くためには、研究生命をかけるほどの決意が必要ではないかと感じました。

 こうした戦いを進めるためには多くの方々の協力とともに、絶望という言葉を受け入れなくてはならない時があるのではないかとも思いました。大きな壁に対する長い長い戦いになるだろうと。

 「冬来たりなば春遠からじ」という言葉がありますが、それは冬の長さを知っているから春は近いのです。もし春が数千年続くとしたら、春が来る前に倒れてしまうかもしれません。絶望を受け入れるしかないこともあると思いました。

 最初に手がけたのは、生活習慣病に関する医学や栄養学の研究文献の調査です。文献をものすごく読みました。食事をしているときを除くと寝る時間を減らして読み続けました。寝るときは研究室にある椅子を3つ並べて寝ました。2つだと足を真っ直ぐ伸ばせないので疲れがとれません。3つというのが寝技のコツです。これは私の特技ではないか、と思っています。

 そのため、慢性的に睡眠不足でした。通勤に自転車を使っているのですが、ある日、自転車に乗っているとき、あまりに眠くて、片一方の目を休め、交互に目をつむればうまくいくのでは....と考えました。

 まずはじめに右目をつむって、次に右目を開けて、また左目を閉じました。覚えているのはココまでです。そんなことできませんよね。見事に田んぼに落ちました。イネ刈りが終わったあとだったので水に濡れることはありませんでしたが。

 そんな無謀な生活がたたり、左右の目の視野を失いました。最初は左目、次に右目の視野を失いました。今はだいぶ回復したのですが、当時、絶望と悔しさを感じたことを覚えています。そうなると研究生活にも少し支障が出ました。

 こうしたとき、ひどい差別にあいました。上しか見ないヒラメや水面下で見えない足を使って、ばたばたと平気でたたくアヒルたちによる差別やハラスメントにあいました。

 神様は不公平なのかな..と思いました。

 でも、そんな時に、手をさしのべてくれた方々がおられました。気骨のある人たちです。こうした方々によって救われ、私の人生がとても豊かになりました。今日は、お二人紹介します。元農林水産省果樹研究所長の間苧谷さんと公益財団法人中央果実協会の原田さんです。つらく苦しい時にいただいた間苧谷さんの電話からの何気ない言葉に何度も救われました。仏様みたいな人です。原田さんは、メルマガ配信の危機を救ってくれました。この場を借りて深く感謝申し上げます。

 生活習慣病の予防についての情報を消費者に伝えるには、私達の倫理感を明らかにしておく必要があると思いました。「自分たちの利益ではなく、相手の利益に」です。長い目で見ればその方がよいと考え、売れればいいとは思いませんでした。何故なら、健康情報は、国民の命に直接関係しているからです。

 そのため、メールマガジン「果物&健康NEWS」を創刊するとともに、果実日本や信州の果実などを通じて誌面での情報発信、医師や栄養士、学生に対する講演活動などを行ってきました。こうした活動は今も続けています。こうした情報公開は次第に受け入れられてきました。

 最初は果物の摂取目標を定めた「毎日くだもの200グラム」です。医師や栄養士からは、多く摂取し過ぎるとの批判を受けました。反対に、少なすぎるとのお叱りも受けました。

 しかし、その科学的根拠に従って提唱した情報は、厚生労働省や農林水産省などが作成した「食事バランスガイド」に採択されました。この成果は、栄養学史上初めて果物の摂取目標が政府によって定められたことでもあります。

 昨年作成され今年の4月から実施される「健康日本21」の第二次で推進計画の理念は、果物摂取は肥満、脳卒中、心臓病、2型糖尿病予防に効果的であると認めていますが、この科学的根拠は、メルマガなどで取り上げてきた私たちの見解と同じです。

 先日(2013年3月18日)発表された日本糖尿病学会の糖質に対する公式な声明についても私たちが既に明らかにしてきたことと同じです。

 今は、人生、ちょっといいこともあるのかな...と思っています。

 園芸振興松島財団の皆様に深く感謝申し上げるとともに、お礼の言葉とさせていただきます。


         2013年3月27日
         新橋第一ホテル「桜」の間に